車両ハンドリングを考慮した設計では、前輪および後輪が路面に接する部分に発生する揚力のほか、車両の安定性を決定する側面荷重と前後運動、左右運動、ヨーモーメントを予測する必要があります。また、力とモーメントは、一定範囲での静的な横風条件や、動的な横風条件の下で予測しなくてはなりません。床下と車体後部の後流は、圧力や流れの発生によるわずかな変動に非常に敏感に反応するため、あらゆる状況下で、大半の車両の力とモーメントは非常に高い非定常性を示します。
実際の路面条件と高性能車両とのマッチングは、風洞を利用した物理テストを実施するうえで大きな制約となっています。車両の動きと流れの発生条件の実際の影響は、風洞試験で計測できません。風洞試験を実施する場合、路上での車両の動きの影響を計測するために、ベルトと吸気/送気装置からなる高価なムービンググラウンドを模擬したシステムを使用します。また、さまざまな静的な横風(方位)角度をテストし、流れの発生条件の影響を計測します。しかし、風洞には、非定常の空力荷重を正確に測定する機能がありません。非定常の空力荷重は、振動、応答性、安定性に対するドライバーの認識に影響を与える要素です。風洞試験で得た推定値は、車両の空力開発で操作性を最適化するうえで大きな障壁となっています。そのため車両の操作性は、設計プロセスの終了間際に最終試作品の路上試験で評価しなければなりません。
従来のシミュレーション・ツールでは、動的な発生条件のもと非定常の力とモーメントを正確に予測することは容易ではありません。しかし、PowerFLOWは本質的に非定常のため、こうした条件に自然に対応できます。影響を受けやすい床下と車体後部の後流領域での圧力変動を正確なタイミングでシミュレーションし、過渡応答を予測します。PowerFLOWの操作性シミュレーションの精度は、静的な横風条件を用いたムービンググラウンド型の風洞試験と比較して高い水準を誇り、業界で高い評価を受けています。シミュレーションには、動的な発生条件や他の車両による影響など、風洞では再現できない条件を反映させることができます。