従来、ブレーキ・システムの性能を正確にテストするためには、物理的な試作品を作成し、大規模な路上走行テストや風洞テストを行わなければなりません。こうしたテストでは、1回または複数回のブレーキ・サイクルでブレーキ・ディスクが高温に加熱された状態にして、その後の冷却時間を測定します。最高温度が許容範囲を超える場合、または冷却速度が不十分な場合、冷却性能を向上させるために空力的な変化を利用するのが主な方法です。こうした物理テストは、設計段階の後半で試作品が完成している場合のみ、実行することが可能です。しかし初期段階では、試験台の上でしかブレーキ・ディスクをテストできません。この環境は実際の車両状態とは異なります。ブレーキ・システムは、床下やエンジンルーム、回転するホイールが相互に作用し、
極めて複雑な乱流が生じる環境で動作します。この複雑な流れを詳細に視覚化し理解することは、ブレーキ・システムの形状調整を評価するうえでは欠かせません。しかし、これはどのような物理テストでも実質的に不可能です。ブレーキ冷却機能は、設計サイクルの初期段階で、シミュレーション・ツールを活用して解析する必要があります。
ブレーキ・ディスクは急速に高温になりますが、それは熱伝導、熱ふく射、周囲空気への対流冷却の複雑な相互作用の結果です。このためシミュレーションでは、こうした相互作用を簡単かつ正確に予測できなければなりません。また、特に重要となる冷却には、定義上、ほとんどの流体シミュレーション・ツールの対応時間よりも長時間続く非定常性の問題が存在します。