ブレーキ冷却向けPowerFLOW

 

オーバーヒートの防止

 

ブレーキ・システムはどの車両にとっても重要な要素であり、故障や不具合は乗員の安全を脅かします。ブレーキは過酷な条件下で広範なテストを行い、その性能を保証する必要があります。ブレーキ・システムの設計は、ディスクの過熱を防ぐために高度に最適化する必要がありますが、結果的にブレーキ効率の低下やシステム全体の不具合を招く恐れがあります。対流によるブレーキ・ディスクの空力的な冷却は、許容範囲の動作温度にブレーキを維持するための重要なメカニズムです。ブレーキ・エアダクトなどの他の冷却装置を設置してディスクへの冷却風流れを増やすことは可能です。しかし、車両重量と空力抵抗が増大し、製造コストも販売価格も高くなってしまいます。さらに、標準的な負荷サイクルでの性能予測を求める規制が適用され、ブレーキの動作はますます制御されています。メーカーは、高額な費用がかかる過剰設計や設計後期での変更、高価な試作品による試験を回避するために、開発の初期段階でブレーキ性能を正確に予測する必要があります。

技術面での課題

従来、ブレーキ・システムの性能を正確にテストするためには、物理的な試作品を作成し、大規模な路上走行テストや風洞テストを行わなければなりません。こうしたテストでは、1回または複数回のブレーキ・サイクルでブレーキ・ディスクが高温に加熱された状態にして、その後の冷却時間を測定します。最高温度が許容範囲を超える場合、または冷却速度が不十分な場合、冷却性能を向上させるために空力的な変化を利用するのが主な方法です。こうした物理テストは、設計段階の後半で試作品が完成している場合のみ、実行することが可能です。しかし初期段階では、試験台の上でしかブレーキ・ディスクをテストできません。この環境は実際の車両状態とは異なります。ブレーキ・システムは、床下やエンジンルーム、回転するホイールが相互に作用し、

極めて複雑な乱流が生じる環境で動作します。この複雑な流れを詳細に視覚化し理解することは、ブレーキ・システムの形状調整を評価するうえでは欠かせません。しかし、これはどのような物理テストでも実質的に不可能です。ブレーキ冷却機能は、設計サイクルの初期段階で、シミュレーション・ツールを活用して解析する必要があります。

ブレーキ・ディスクは急速に高温になりますが、それは熱伝導、熱ふく射、周囲空気への対流冷却の複雑な相互作用の結果です。このためシミュレーションでは、こうした相互作用を簡単かつ正確に予測できなければなりません。また、特に重要となる冷却には、定義上、ほとんどの流体シミュレーション・ツールの対応時間よりも長時間続く非定常性の問題が存在します。

SIMULIAソリューション

SIMULIAは、設計の初期段階で過酷な試験条件のもとブレーキ冷却性能を正確に予測できるソリューションを提供します。PowerFLOWは、独自の本質的に非定常な格子ボルツマン法に基づく物理解析により、極めて複雑な形状でも実世界での非定常条件を正確に予測できます。PowerTHERMは、完全な連成型で、高い精度を誇る非定常・熱伝導・熱ふく射解析ソルバーです。PowerFLOWとPowerTHERMを組み合わせることで、3つの熱伝達モードを含む完全な熱解析を実現します。このため、正確に温度を予測し、ブレーキ・システムの流れ場と温度場を可視化できます。これにより、問題のある領域を特定するだけでなく、設計上の問題を解消するための推奨事項を提案できます。モデルのセットアップ、シミュレーション、視覚化、設計変更のターンアラウンド時間が短縮されるため、ベースラインに対する設計変更を速やかに実行し、ブレーキの性能向上を評価することが可能です。

PowerTHERMは、分単位または時間単位という長い時間での非定常解析に使用できます。断熱性の評価を追加で行う場合など、設計検討をスピードアップするために単独で使用することもできます。ブレーキ冷却シミュレーションのベストプラクティスも提供しています。

ブレーキ冷却にSIMULIAソリューションがもたらすメリット:

  • 設計初期に、複数のブレーキ・サイクルでのブレーキ・ディスクの温度上昇や冷却速度を正確に予測します。
  • 高額な費用がかかるブレーキ冷却の物理テストと試作の回数を減らしたり、ゼロにしたりします。
  • インテリジェントな形状修正機能で効率的に設計を最適化します。空力抵抗の増加や製造コスト・顧客コストの上昇につながる過剰設計や不要な対策を防止します。
  • 広範囲にわたる車両の走行状況やブレーキ・サイクルを考慮しながら、スピーディに設計を進めることができます。