ZONNEVELD INGENIEURS社

Zonneveld社は、ダッソー・システムズのSIMULIA Abaqus FEAにより、地震発生時の地盤振動をシミュレーションして、建物の損壊を防ぐと同時に防音性も高める、まったく新しいソリューションを考案しています。

地震予知は困難です。突然強い揺れに見舞われ、建物が倒壊して、人的被害が発生する場合があります。さらに留意すべきことは、人間の活動によって引き起こされる、人為的な誘発地震が増えていることです。石油・ガス採掘によって地震が誘発される場合もあるため、軟弱で不安定な土層や既知の断層の近くに建設される建物には特に注意が必要です。

最悪の事態を想定したエンジニアリング

地震の原因が何であれ、被害を軽減、場合によっては排除することができます。オフィスビルや集合住宅および同様の居住空間を危険性の高い地盤から隔離して、壁および基礎を補強し、複合的な一連のバネやスライダー上に建物全体を配置することで、予期せぬ地盤振動による最悪の事態を回避して安全な状態を保つことができます。

オランダの構造エンジニアである、Mark Slotboom氏およびチーム・メンバーは、地震発生時に新築および既存の建物を保護する、革新的な方法に取り組んでいる専門家です。Zonneveld Ingenieurs社(ロッテルダムのエンジニアリング企業)は、世界中の高層ビルや土木プロジェクトにおいて、35年にわたって耐荷重鋼およびコンクリート構造の設計に携わっています。

最近の実績として、同社はペッチ現代美術センターの再開発(イタリア、プラート)、オリンピック・メインプレス・センター(アテネ)、ハマースミス・オフィス街(ロンドン)などのプロジェクトを担当しています。Slotboom氏と関係者がリアリスティック・シミュレーションを提供するダッソー・システムズのSIMULIA Abaqus Unified Finite Element Analysis(FEA)ソフトウェアを使用し始めたのは、複雑なエンジニアリング・プロジェクトが主な理由です。

同社の耐震に関する専門知識が世界中で求められていることは明らかであり、Slotboom氏の取り組みは、オランダ国内でますます注目されています。オランダは地質学的には地震が発生しやすい国ではありませんが、近年欧州最大級のフローニンゲン・ガス田(スロッホテレン近郊)における採掘が深刻な影響を及ぼしています。採掘作業により、地質学的応力の再分布と断層のずれが生じているため、オランダ政府は主要な石油生産者に対して、段階的な採掘の中止(4年間の猶予付き)を命じています。

軟弱な地盤

オランダの大部分が湿地、干潟や泥炭地を埋め立てた低地であり、人為的な原因によって引き起こされる地震による液状化現象が特に発生しやすいことは明らかです。ロサンゼルスやカシミール地方でマグニチュード5の中規模地震が起きても、世界的に報道されることはないかもしれませんが、オランダでは甚大な被害をもたらします。さらに、オランダは大きな風災害や地震が発生したことがないため、同国の建設業界では、単純な積み立て、薄い壁、コンクリート床による建物設計が当たり前になっています。また重力のみが主な荷重と考えられているため、使われている安定部材は必要最小限です。

「オランダでは、リヒター・スケール(マグニチュード)はさほど重要視されていません」とSlotboom氏は述べて、次のように続けています。「例えば日本では、地表から何キロも深い地殻の変動により地震が発生しますが、オランダでは震源の深さは1~3キロ程度です。地盤がかなり軟弱な土地では、振幅が小さな地震でも、建物やその他のインフラに大きな被害が及ぶ可能性があります。」

オランダにおけるは石油・ガス産業に伴う地震が注視されるようになったのは最近ですが、Zonneveld社は被害軽減に長年にわたって取り組んでいます。FEA能力向上を目的に経営陣の意思決定によりAbaqusを導入し、イタリアとギリシャで2つの地震関連エンジニアリング・プロジェクトを完了した同社は、不安定さが更に増している、地元ロッテルダムへも活用し始めています。

Abaqusにより、モデル化されたMerckt。地震による最大変位が示されています。
Abaqusにより、モデル化されたMerckt。地震による最大変位が示されています。

Zonneveld Ingenieurs社が目指している工法は複雑であり、Abaqusはまさにその限界を押し広げているといえます。私たちは、建設業界の特殊なケースに伴う、極めて注目すべき課題をサポートしています。自動車や航空宇宙における典型的な課題は周知されていますが、私たちはこれらとはまったく異なる建物の地震シミュレーションにより、Zonneveld社と連携してソフトウェアの限界を押し広げています。

Vincent Bouwman氏

4RealSim

より静かで安全な居住空間の設計

Slotboom氏と関係者は、5年前にAbaqusを採用して、構造解析およびモデリングのサポートに大いに役立てています。フローニンゲンの5階建コンクリート建築プロジェク(Merckt)は最近の一例です。この建物は、1階にバー/ナイトクラブやレストラン、上階に18戸の高級マンションが計画されており、耐震性が求められています。

このプロジェクトを担当している地震エンジニアは、いくつかの課題に直面していました。フローニンゲンの中心部(人口20万人)に位置する複合ビルであるMercktでは、上階の居住空間を1階および周囲の騒音から隔離することが重要でした。また都市部の飽水土壌および人為的な誘発地震の可能性に対処する必要がありました。

Slotboom氏は次のように説明しています。「多くの意思決定が必要でした。オランダでは騒音規制が厳しく、集合住宅には一般的に重量コンクリート壁が使われています。しかし、コンクリート壁は非常に硬質なため、鋼桁による「柔軟な」壁よりも地震時に大きな横揺れが発生します。また、土壌の化学性、提案された構造の地震に対する反応、建築基準法など、考慮すべき多くの分析が必要でした。」最終的に、騒音および耐震設計という個別の課題を同時に取り扱う案が選択されました。これにより、両方のダンパーを共通のポイントに配置して、音響を減衰するCDMゴムにより、地震による揺れを相殺することができます。

建物の耐震化には、さまざまな方法があります。建物の構造を地震による揺れに耐える十分な強度にすること、および地震による変位に対応できる十分な延性を備えることが従来の方法でした。より高度な選択肢として、地震による振動と反対方向に動く大型の減衰メカニズムを建物の上部または内部に設置して地震のエネルギーを消滅させる方法があります。巨大なバネを建物の下に設置して、自動車のショック・アブソーバーのような方法により、建物の振動を抑えることもできます。あるいは何世紀も前に航海船の建造者によって発明された技術を用いて、建物を双方向ジンバル装置上に設置して周囲から隔離する「免震」を選択することもできます。
 

振動の軽減

Zonneveld社の技術者がMercktに採用した方針は、遥か昔に船乗りが用いていた方法に似通っていますが、はるかにハイテクなソリューションでした。ベルギー、オランダ、ルクセンブルグにおけるダッソー・システムズの付加価値再販業者であり、FEAエンジニアリング・サービスを提供している4RealSim社と連携して、同社のチームは、Abaqusにより、計画中の建物の地下土壌の化学的および物理的特性のモデル化に着手しました。

「まず、Abaqusで直接構築した土柱を使用して、いくつかの局所的な実行から開始して、地表から約30メートル下の地震信号を適用しました。これにより、加速度レベルや土壌と建物の相互作用などに対する地盤レベルの反応をシミュレーションしました。そして最終的に、このような大規模な建物に使われているコンクリート杭ではなく、かなり厚い基礎と地下壁が必要という結論に至りました」(Slotboom 氏)。

最初の基礎設計を完了後、Slotboom氏、Bouwman氏およびその他のチーム・メンバーは、地元の構造コンサルタント、建築家、請負業者および音響コンサルタントの協力も得ました。Zonneveld社は、これまでの地震工学の経験に基づいて、ジンバル装置による「免震」工法が建物の規模および形状に最も適していると判断して、シミュレーションにより、その環境を再現しました。

テフロン加工された「ダブル・カーブ・スライダー」と呼ばれるジンバル装置を1階と2階の間に設置することで、上階の建物がX軸とY軸方向(前後左右)の揺れに対応できます。一方で、騒音低減の要件を満たすために、音響隔離装置(CDM装置)(硬質なゴム製のドーナツのような形状)が30個のスライダーの各上部に設置されました。これにより、騒音の減衰だけでなく、縦方向の振動がある程度軽減されます。これらをすべてAbaqusでモデル化して、建物の振動が仮想的にテストされました。

防音と耐震の連携

地震シミュレーションでは、建物に加わるさまざまな衝撃が想定されました。Zonneveld氏は、実際の地震記録に基づいて、周波数、振幅、振動方向が異なる7つの「基準信号」を適用して、それぞれの規模をMercktの地下の仮想的な土地区画に合わせました。これにより、将来起こり得る地震を3次元でテストして、 Mercktのさまざまな反応が確認されました。

「防音および耐震の両方の要件に対応する複合的な解決策を特定する必要がありました。ジンバル装置による免震工法が、この課題解決に大いに役立ちました。CDMは垂直方向の地震信号および周辺環境の騒音の軽減に役立ちますが、地震時の揺れのほとんどが水平方向に生じます。これに対して、ダブル・カーブ・スライダーが最も効果を発揮しました。このスライダーは自己調心性により、振動が止まると建物が中立面に戻ります。」

(Slotboom氏)

Abaqusは、各スライダーの適切なサイズと位置の決定、荷重と振動を最も効果的に分散させる方法の特定、最終的に投資コストの削減にも役立ちました。またAbaqusにより、設計変更の必要性も示されました。 シミュレーション結果に基づき、Slotboom氏と関係者は、耐震性を最大限に高めるために、重点的な位置でさまざまな梁やその他の部分を強化する必要があることを認識しました。

ディープダイブ・ソリューション

Mercktは現在建設中ですが、Slotboom氏は、Abaqusによる設計結果に自信を持っています。「私たちは大企業ではありませんが、さらに複雑なプロジェクトに取り組みたいと考えています。Abaqusにより、より効率的なより多くの設計オプションを考案して、エンジニアリングの困難な課題を掘り下げることができるため、お客様により大きな価値を提供できます。」

(Slotboom氏)

パートナーのVincent Bouwman氏(4RealSim社)もこれに同意して、次のように述べています。「Zonneveld Ingenieurs社は、Abaqusをベースとした現実的な取り組みにより、フローニンゲンやその他の地域のさまざまなタイプの建物の安全性を評価および改善して、建設業界において価値あるサービスを提供しています。」
私たち、4RealSimは、有限要素法に関する詳しい知識、サポート、トレーニング、エンジニアリング・サービスにより、同社の取り組みをサポートしています。」