微小重力のメリットを引き出す
オーストラリアの科学者たちが、無重力状態でのがん細胞の挙動を研究しています。シドニー工科大学(UTS)生体医工学部の研究チームは、卵巣がん、乳がん、鼻腔がん、肺がんの細胞を微小重力シミュレーターに入れたところ、24時間以内に80〜90%のがん細胞が死滅することを発見しました。この発見を検証するため、研究チームは微小重力実験のスペシャリストであるYURI社と提携して、がん細胞を国際宇宙ステーション(ISS)に送り、真の微小重力状態で研究しています。間もなく、がん細胞がYURI社の特別な細胞生物学実験ハードウェアと共に、SpaceX CRS-21ミッションのISSに輸送されます。これは、微小重力実験を世界中の多くの研究機関に提供しているYURI社にとって極めて画期的な多数のプロジェクトの最初のひとつです。
微小重力とは、重力が物質や物体に作用しない、あるいは作用しているように見えない、重力の影響がほとんどない状態です。ドロップ・タワーやパラボリック・フライト、ISSなどの軌道上の宇宙プラットフォームに物体を送り込むなど、微小重力や自由落下状態を作り出す方法は数多くあります。科学者たちは、病気やその治療法についての理解を深めるために、無重力状態での生物学的・物理学的システムの挙動を探求することに特に興味を示しています。
YURI社のchief technology officer兼co-founder、Philipp Schulien氏は次のように語っています。「重力が常に試験体に作用していることが、地上における試験の問題点です。例えば、細胞をシャーレに入れて試験する場合、底面は二次元で平らですが、体内では細胞は三次元構造であり、これは重力要因を排除することでしか再現できません。ISSでは、より大きな細胞の塊であるスフェロイドを作ることができます。当社は、結晶化実験も行っており、無重力状態で結晶を成長させて、より明確かつ均一な結晶にすることで、光ファイバー・ケーブルなどでより優れた機能性を実現しています。」
当社はハイテク・スタートアップ企業です。つまり、ハイテク・ソフトウェアの導入が重要であり、3DEXPERIENCEプラットフォーム・オン・ザ・クラウドの採用は非常に理にかなっていました。
微小重力を身近なものにする
最近までISSでの実験に非常に高額なコストがかかっていましたが、3DEXPERIENCE®プラットフォームを使用して構築されたYURI社のハードウェアのおかげで、わずか95,000ユーロでISSでの実験に送ることができるようになっています。
ドイツの航空宇宙エンジニアのチームによって立ち上げられたYURI社は、微小重力実験をよりシンプル、より迅速、そしてより手頃に利用するために設立されました。YURI社の創業者は、製薬、バイオテクノロジー、先端材料、エレクトロニクス産業にとって、微小重力実験が秘めている大きな可能性を確信しており、これを幅広く利用できるようにしたいと考えています。同社は、クライアントと協力して実験のセットアップを定義し、実験ハードウェアと微小重力プラットフォームの最も適切かつコスト対効果に優れた、時間効率の高い組み合わせを選択し、打ち上げを予約し、安全性と物流に考慮すべき事項をすべて処理するなど、ミッションのあらゆる側面に対応しています。
「当社のミッションは、微小重力研究を誰もが利用できるようにすることです」とYURI社のco-founder 兼 chief commercial officerであるMark Kugel氏は述べます。「当社では全員がこの分野での経験が豊富で、ISS向けの微小重力実験に数多く携わってきました。そのため、科学者がコストや利用面で直面している問題点を目の当たりにしており、より適切な方法を見つける必要があると考えていました。」
YURI社が成功を果たしている重要な理由は、モジュラー・ブロックによるハードウェアの構築、設計とナレッジの再利用および構想段階から実験立ち上げまでがわずか数ヵ月であることです。このアプローチにより、UTSなどの組織がコストを抑えながら微小重力を初めて利用できるようになっています。
「当社は部品を再利用できるモジュラー・アプローチを構築しています」とKugel氏は続けます。「すべてをゼロから開発する必要がないため、コストを大幅に削減できます。つまり、予算が限られているため、これまでは市場に参入できなかった小さな組織でも、微小重力を利用できるようになっています。当社は、どの企業よりも迅速です。宇宙での実験を4ヵ月で利用できるようにしています。これは他の企業に比べて、およそ3倍の速さです。また、宇宙空間で高額な資産を自社で所有せずに、関連機関と連携して提供しているため、当社のクライアントは最も安価なオプションを選択できます。このように、当社のコスト対効果および時間効率は高いです。」
YURI社は、2019年の立ち上げ以来、3DEXPERIENCEプラットフォームを使用して、ハードウェア開発プロセス全体に取り組んでいます。
Kugel氏は次のように語っています。「当社はハイテク・スタートアップ企業です。つまり、ハイテク・ソフトウェアの導入が重要です。CATIAは、航空宇宙分野で使用されている最も一般的な設計システムであり、その設計アプリケーションを3DEXPERIENCEプラットフォーム・オン・ザ・クラウドで採用することは非常に理にかなっていました。」
特化したハードウェアを3Dで開発
YURI社のハードウェアはすべて3DEXPERIENCEプラットフォームで設計されています。3Dアーキテクチャを活用して、標準的な実験コンテナやモジュールとカスタマイズされた実験コンテナの両方を開発しています。
「ISSには数多くの研究施設があり、当社は各施設に適合するコンテナを提供しています」とKugel氏は述べて次のように続けています。「最も一般的なコンテナは、標準的な10x10x10cmの立方体ですが、80x50x30mmの立方体もあります。コンテナは、軽量かつ完全に安全でなければならず、生体適合性が必要です。
これらの小型モジュラー・コンテナの設計は細部まで至ります。細胞培養、植物、水生システムなど、個々の使用ケースに合わせてそれぞれのインナー・シェルがカスタム設計されています。
「これらの小型コンテナのフォーム・ファクターは、標準的な寸法と重量の要件を満たす必要があり、特定のユースケースに適合するように設計されています」とSchulien氏は述べて次のように続けています。「研究アイデアがある当社のクライアントには、温度や体積などの科学的な要件があります。当社はこれを3DEXPERIENCEプラットフォームにより、マシン・ビルダー向けの設計とエンジニアリング仕様に変換しています。」
YURI社のエンジニアは、初期の設計段階ではCATIAを使用して、アイデアを容易に共有およびやり取りできる、理解しやすい形式で表現しています。3Dで設計することにより、クライアントとコンセプト案を共有して、ハードウェアの外観や動作を明確に可視化できます。3DEXPERIENCEプラットフォームのENOVIAは、信頼性の高い唯一のデータソースを提供します。これにより、設計変更を追跡して、製品開発のライフサイクルにおける手直しをさらに減らすことができます。
「設計に変更を加えると、当初の作図も直接変更されます」とYURI社の設計エンジニア、Lukas Trautwein氏は述べて次のように続けています。「すべてが結び付けられています。3Dモデルで作図するもうひとつの大きなメリットは、新しいハードウェアのコンセプトに取り組むときに、ゼロから始める必要がないことです。さまざまな部品やコンポーネントを容易に組み合わせてモジュールを構築して、クライアントの具体的な要件を満たす製品を迅速に作成できます。」
これらすべてが、YURI社がミッションの厳しい時間枠を維持しながら、各実験を確実に打ち上げに間に合わせるために役立っています。Trautwein氏は次のように述べています。「納期は言うまでもなく絶対厳守です。当社は可能な限り迅速に行うことを目標としています。設計段階を早く完了して、実験を開始、セットアップをテストおよび調整できるようにすることが、クライアントの利益にもつながります。
当然のことながら、特に宇宙実験の提供が私たちのビジネスであるため、データ・セキュリティをチェックしています。データを保存するサーバーの管理が必要です。できる限りヨーロッパのサーバーが望ましいのですが、3DEXPERIENCEプラットフォーム・オン・ザ・クラウドではこれが可能です。
クラウド版により、スタートアップ企業の成功をサポート
ダッソー・システムズのビジネス・パートナーであるCENIT社が、YURI社の3DEXPERIENCEプラットフォーム導入をサポートしています。「CENIT社が当社のビジネス要件に最適なパッケージおよびセットアップの選択をサポートしてくれました」とKugel氏は述べて次のように続けています。「実に良好な関係をCENITのチームと築いています。導入全体をガイドしてもらい、今でも何か問題があれば、すぐに解決してくれています。」
以前の職場でCATIAを使用していた多くのチーム・メンバーが、3DEXPERIENCEプラットフォーム・オン・ザ・クラウド上のCATIAの新しいユーザー・インターフェースを高く評価しています。「クラウドベースのプラットフォームで設計を直接開始して、必要なすべての充実した機能を利用できることは、私たちにとって理にかなっていました」とTrautwein氏は述べて次のように続けています。「以前は別のCADシステムを使用していましたが、3DEXPERIENCEプラットフォームのCATIAに移行して、真のステップアップを実感しています。新しいユーザー・インターフェースにより、さらに使いやすくなっています。」
YURI社は、特に柔軟なアクセスと拡張性を提供している点で、クラウド版の導入が同社のビジネス要件に理想的な選択であると判断しました。クラウド版の導入を進める前に、ダッソー・システムズが提供するクラウドが同社のデータ・セキュリティ・ニーズに合致していることを確認しました。
「当然のことながら、特に宇宙実験の提供が私たちのビジネスであり、データがさまざまなカテゴリに分類される可能性があるため、データ・セキュリティをチェックしています」とSchulien氏は述べて次のように続けています。データを保存するサーバーの管理が必要です。できる限りヨーロッパのサーバーが望ましいのですが、3DEXPERIENCEプラットフォーム・オン・ザ・クラウドではこれが可能です。」
現在、YURI社のエンジニアは、各自のデバイスでどこからでもオンラインでプラットフォームにアクセスして、最新のデータと設計を共有しながら作業できるメリットを活用しています。「必要なすべてのアプリケーションに即座にアクセスして、すべてのコンポーネントに対して作業ができ、同僚と安全に共有できます。ファイルベースでの作業やデータのローカル保存では、このようなわけにはいきません」とTrautwein氏は述べて次のように続けています。「自宅で作業をしていても、クラウド版のアプリケーションへのスピードおよびアクセスの点では何も変わりません。万が一障害や故障が発生しても、クラウドの永久保存メカニズムにより、データが安全に保持されます。」
クラウド版は、常に最新バージョンのソフトウェアを使用して最新機能を利用できるメリットをYURI社にもたらしています。「アップデートの管理が非常に容易で、全員が最新リリースを使用して同じ方法で作業できるようになっています」とTrautweinは述べて次のように続けています。「バックグラウンドでシームレスにアップデートが実行されるため、メール管理などその他の作業を続けることができ、生産性に影響を与えるこはありません。」
拡張性
YURI社は、ビジネスを引き続き成長させて、より独自かつ多様な実験を微小重力で実行するために、技術プラットフォームが継続的なニーズをサポートすることを確信しています。
「クラウド・プラットフォームは、当社にとって最も柔軟かつ最適なソリューションです。特にビジネスに支障をきたすことなく、要件の変更や進行に合わせて機能を追加できます」とKugel氏は述べて次のように続けています。「ハードウェアを追加購入する必要がないため、迷うことなく新しいアプリケーションを追加できます。必要な機能をすべて単一のプラットフォームで利用できます。」
YURI社について
宇宙エンジニアのチームによって2019年に設立された同社は、あらゆる産業の微小重力状態での研究を実現しています。ドイツ企業である同社は、ISS、軌道上および準軌道上の宇宙船、パラボリック・フライト、ドロップ・タワーを利用するクライアント向けに財布サイズの全自動ミニラボを開発しています。微小重力という特殊な環境は、人体組織が3次元的に成長して創薬を改善できるため、ライフサイエンス分野では特に価値があります。YURIという社名には、人類初の宇宙飛行士ユリ・ガガーリンへの敬意が込められています。
詳細情報:www.YURIgravity.com
CENIT社について
同社は持続可能なデジタル化を支援しています。ダッソー・システムズのソリューションは、製品ライフサイクル管理、デジタル・ファクトリー、企業情報管理の革新的な技術に基づいています。同社のコンサルタントは、バリュー・チェーン全体を理解してソリューションが導入されるように、エンドツーエンドのアドバイスを顧客に提供しています。包括的なアプローチと信頼できるパートナーシップに基づいて、同社は顧客に代わりソリューションに対する責任を負います。同社は30年以上にわたって主な業界有数のクライアントの競争優位性の獲得を支援しています。