空飛ぶタクシーの実用化
電動垂直離着陸機(eVTOL)の市場投入に向けた競争が始まっています。その先頭に立つ一社である英国の航空宇宙スタートアップ企業、Vertical Aerospaceは、世界初の認証を受けた有翼のeVTOLであるVA-X4の市場投入を予定しています。 静音でエネルギー効率が良く、二酸化炭素を排出しない同社のeVTOLは、次世代のアーバン・モビリティのソリューションとして注目を集めています。Vertical Aerospaceを含むイノベーション企業は、騒音規制で現在、一日あたりの飛行回数が制限されている地の空港やヘリポート間を、より自由に往来、アクセスできるようにするための計画を立てています。Vertical Aerospaceが取り組んでいる、ヘリコプターと比べてはるかに静音でランニングコストも低いeVTOLであれば、高速鉄道網や航空路線がない地域の旅客市場に参入することができます。
同社のエンジニアリングの責任者であるEric Samson氏は述べます。「私たちは大都市における人口増加に直面しています。道路や公共交通機関などの陸上を基盤とする交通インフラは飽和状態であり混雑を極めています。また、大都市周辺の移動に使われているヘリコプターは、騒音レベルにより離着陸が制限されることが増えており、安全性におけるリダンダンシー(冗長性)が無く、料金的にも一般市民には手の届かない存在です。当社が開発している分散型電気推進システムは、リダンダンシーがあり、ヘリコプターより運用費と維持費が安く、騒音は30分の1で、地球環境に配慮しています」
Vertical AerospaceのeVTOL、VA-X4は、固定翼に複数の回転翼を備えたデザインによる揚力により、飛行中の電気負荷を軽減します。
本質的なビジネスニーズを満たす
Vertical Aerospaceは 3DEXPERIENCEプラットフォームを最大限に活用するために、ダッソー・システムズのビジネスパートナーであるDesktop Engineering(DTE)社と連携しています。Vertical Aerospaceは、プロセスを構築し、それをプラットフォームの機能にマッピングする際のサポートとガイダンスが非常に重要だと認識しています。
Vertical Aerospaceのシニア・デザイン・エンジニアであるJames McMillan氏は述べます。「3DEXPERIENCEプラットフォームは、驚くほど多くの機能を有しています。当社は、まず本質的なビジネスニーズにフォーカスして、製品の構造の構築や、将来においても役立ち、コンフィギュレーション・コントロールを支えることになる、部品のナンバリングシステムの導入などのプロセスを確実に立ち上げて機能させることから始めました。eVTOLの運用が開始されれば、全ての部品の完全なトレーサビリティが必要になります。
当社は、将来も有効に活用できる製品構成を構築するために、DTEおよびダッソー・システムズと連携しています。当社の予定は非常にタイトなため、部品のナンバリングシステムの整備など、その他にもすぐに実行すべきことが沢山あります。そのような中で、DTEとダッソー・システムズのガイダンスは素晴らしいものであり、とても役に立っています」
Vertical Aerospaceは、急成長するビジネスニーズに対応するために、クラウド版のプラットフォームである3DEXPERIENCEプラットフォーム・オン・ザ・クラウドを採用しています。
Samson氏は述べます。「クラウドにより、ビジネスのレジリエンスが確保され、また、いつでもどこからでも作業を継続できます。全てのデータがクラウドに保存され、情報を一元管理できるので、初期投資を抑えることができます。さらにクラウドでは、全てのアプリケーションが常に最新の状態に更新され、また、要件の変更に応じて機能の追加や削除をすることができます」
3DEXPERIENCEプラットフォームは、要件の重要な段階の開発や共有、および要件に沿って機体を開発しているかの確認、検証、そして航空局と共に機体の型式証明を管理するのにも役立つでしょう。当社とビジネスパートナーは、一つのプラットフォームで情報を一元管理できるので、世界のどこからでも作業を同時進行できます」
プロセスと製品の策定を同時進行
Vertical AerospaceにおけるMcMillan氏の役割は、社内のプロセスを策定すること、及び、標準化され、無駄がなく、組織をまたいだ作業の手法を導入することです。
McMillan氏は述べます。「Vertical Aerospaceが何を目指しているのかを初めて知った時、私は大変驚きましたが、今は、当社のビジョンや、環境への配慮、革新性、まったく新しい技術を開発しているという事実に愛着を持っています。当社はまったく白紙の状態から機体を開発しています。したがって、さしあたってのプロセスを整えるだけではなく、将来的にも有効なプロセスにしなければなりません」
製品開発と並行して、Vertical Aerospaceは業界標準プロセスを整備していますが、これも全て3DEXPERIENCEプラットフォームが支えています。このプラットフォームがサポートしている主な領域の一つが、変更管理です。
McMillan氏は述べます。「私の経験では、変更管理は通常、複数のプラットフォームをまたぐものでした。しかし当社は現在、3DEXPERIENCEプラットフォーム上で、エンドツーエンドのデータ管理すべてを行っています。また、何かを決定するための会議では、プラットフォームを通じて関係者の決を採ることができ、プラットフォームに会議の様子と、会議を支えるワークフローを記録することができます。 また、主な関係者が文書を承認するための署名ループをセットすることも出来るようになるでしょう」
プラットフォームのこの機能性は、Vertical Aerospaceが製品開発において次の段階に進むのに特に重要です。
McMillan氏は続けます。「殊に将来に目を向けている当社にとっては、エンドツーエンドの変更プロセスが非常に重要です。変更管理をコンフィギュレーション・コントロールと合わせてマッピングすることで、設計のソリューションにおける有効性の範囲を、特定の機体グループだけに適用することも可能になるでしょう。現在、当社ではシングルサインオンにより、ログインすれば誰もが機体のライフサイクル全体のプロセスを確認することができます。これは本当に素晴らしいことです。機体の生産やサービスを開始する際には、サプライヤーと共に完全に3Dのプロセスを実現し、生産計画から顧客サービス、メンテナンス、修理に至るまで、デジタルなデータでやり取りできることが理想的です」
製品開発のフェーズは完全にクラウドに接続されているので、Vertical Aerospaceは迅速かつコラボレーティブに作業を進められています。
McMillan氏は述べます。「当社は革新的な製品を開発しているので、製品開発には最新かつ最高のプラットフォームを使用したいと考えています。したがって、DTEおよびダッソー・システムズと連携して取り組めることは、非常に刺激的です。両社と連携した結果、当社が航空宇宙産業における作業方法のベンチマークを設定できたと私は考えています」
3Dによるイノベーション
Vertical AerospaceのエンジニアはCATIAを用いて、機体を構成する部品を3Dで設計しています。
Vertical Aerospaceのシニア設計エンジニアであるJohn Russell氏は述べます。「機体全体に対応できる機能を備えたCADパッケージが必要でしたが、CATIAがこれを満たしていると知りました」
CATIAは、例えば、プロセス指向の機能一式を一つにまとめているので、エンジニアは複合材料の構造の設計や検証を全て3DEXPERIENCEプラットフォームから行うことができます。
「機体は基本的に複合的な構造です」とRussell氏は続けます。「CATIA以外のCADパッケージで設計した場合、複合材料の構造が単純化されがちですが、一方で、複合材料の解析作業や、複合材料のプライや配向、レイヤーの把握が、複雑で困難になります。当社は、3DEXPERIENCEプラットフォームと、CATIAのコンポジット・ワークベンチを用いることでレイヤーとプライを構築して、極めて早い段階で、複合材料の部品を作ることができました。ワークベンチのセットアップには少し時間がかかりますが、実行中の解析が多くある時には終始、部品の製造に最も良い方法を調べることができるため、結果として、プロセスがはるかに迅速に進みます。将来的には、このようにしてCATIAで作成したデジタル・データを当社から製造業者に提供し、製造業者はそのデータをそのまま用いてすぐに製造に取り掛かれるようになるでしょう」
すべての専門分野を一元化
Vertical Aerospaceは3DEXPERIENCEプラットフォームにより、コンカレント・エンジニアリング、および、社内の全ユーザーが、プロジェクトを軌道に乗せるために必要な情報にアクセスすることを実現しています。
Russell氏は述べます。「3DEXPERIENCEプラットフォームは全てのチームを一つに結び付けるので、たとえばCADを用いていない関係者でもプラットフォームでデータを確認することができます。eVTOLの設計は、まず航空力学を担当するチームが機体の形状を構築し、解析を行い、機体の空力フローを調査することから始まります。マスターとなるジオメトリサーフェスがあり、それにCADデータをリンクさせているため、空力形状を変更するとCADモデルも即座に更新されます。 CADを使っていない関係者も、クラウドベースのアプリにより、空力形状や構造を確認でき、部品表を送信することができます。 全ての関係者が部品やモデルを確認しながらプロジェクトの計画を策定できることは極めて大きなメリットです」
Vertical Aerospaceは、eVTOLの市場投入に向けてパートナーやサプライヤーのネットワークを拡大しており、サプライチェーンの主立った関係者への具体的な情報の提供や説明に3Dモデルを活用する予定です。
Samson氏は述べます。「当社は、優れた企業と協力して取り組むことが重要であると確信しています。たとえば、当社の飛行制御システムを開発しているHoneywell社は、VTOLの技術に関して多くの経験を有しています。私たちはHoneywellのように、画期的な取り組みや、新技術の市場投入、需要に応じた規模拡張を実現できる、アジャイルな企業と積極的に協力関係を築いていきたいと考えています。このような協力関係のおかげで、2024年の実用化に向けてのeVTOLの開発と認証プロセスを加速することができています。協力関係がなければ、もっと時間がかかることでしょう」
Russell氏も付け加えます。「当社は、応力や航空力学のチームなどによる全ての解析作業を、3DEXPERIENCEプラットフォーム上での3Dのモデルベース定義(MBD)に組み入れています。 このようにしてMBDにより作成された3Dモデルには、製造や組み立てに関する情報と取り付け手順の全てが既に統合されているため、製造工程への引継ぎがはるかに容易かつ効率的になります」
航空業界の新たな幕開け
Vertical Aerospaceは、eVTOLの市場投入にあたり、安全規制機関であるイギリス民間航空局(CAA)と緊密に連携して、規制の策定や業界の新たな安全レベルの定義付けに貢献しています。この緊密な連携に、Vertical Aerospaceのビジョン、革新的なデザイン、高度な技術が組み合わさることこそが、機体の型式証明取得に向けた明確な道筋となります。
「 3DEXPERIENCEプラットフォームは、完全なトレーサビリティを確保するので、CAAのDOA認証(Design Organization Approval)の取得などに役立つでしょう。 当社は、市場初かつ最高のeVTOLを目指しています」とMcMillan氏は述べます。
3DEXPERIENCEプラットフォームをオペレーションの中心に据えるVertical Aerospaceは、空の旅の未来を再定義するのに必要な資質の全てを備えています。
McMillan氏は続けます。「創造力がすべてを可能にします。 当社はまったく白紙の状態から事業を立ち上げ、モジュール方式を採用してきました。先々も見据えると、このプラットフォームを活用して出来ること(たとえば、eVTOLをデジタルで完全に再現すること等)に興奮しています。あらゆるソリューションが一つのプラットフォームあるということは非常にエキサイティングなことです」Vertical Aerospaceについて
グリーンテック・アントレプレナーであるStephen Fitzpatrick氏が2016年に設立したVertical Aerospaceは、eVTOLの開発に革新的な変革をもたらしています。航空宇宙分野の専門技術と精密性に、F1の開発ペースとアジリティを組み合わせることで、最先端のeVTOLを開発している同社は、持続可能な航空技術の世界的なパイオニアです。また、イギリス民間航空局の承認を得て複数のフルスケールのプロトタイプのeVTOLの飛行を実現した、数少ない企業の一社です。
Desktop Engineeringについて
Desktop Engineeringは、CAD、CAM、FEA、CAE、PLMのソリューションのための、フルターンキー・ソリューションを提供しています。また、ダッソー・システムズのプラチナ・パートナーとして、お客様が、CATIA、3DEXPERIENCE、SOLIDWORKS、ENOVIA、DELMIA、3DVIAなどのソフトウェア製品に関する課題を解決して卓越したユーザーになるためのサポートを提供しています。
詳細情報: https://dte.co.uk/