私たちは、単にインフラというモノを作るだけではありません。インフラ・プロジェクトとともに、私たちも進化し続けています
将来も使い続けられるインフラを
世界の中でも日本ほど自然災害に見舞われる国はありません。4つの地殻プレートが相接しており、国土の4分の3を山や丘陵が占める日本列島は、その独特な地理、地形、気候により、台風、地震、津波、洪水、土石流などの災害に対して非常に脆弱となっています。気候変動のためにこれらの自然災害の発生頻度が高まる中、1億2,850万人の国民を災害から守ることは、ますます国の優先事項となっています。
たとえば日本の山間部やそのすぐ近くの平野部の住民にとっては、安全のために土砂災害対策が欠かせません。多くの分野で専門知識を持つ建設コンサルタント会社、パシフィックコンサルタンツは、砂防堰堤(土砂や流木などの土石流を堰き止めて土砂災害を防ぐための施設。砂防ダム)の設計も数多く手掛けています。「技術の力を、未来の希望に」というビジョンのもと、パシフィックコンサルタンツは豊富なエンジニアリングサービスのノウハウを活用し、社会の持続的発展に貢献する総合的な防災システムとインフラの提供を支援しています。
パシフィックコンサルタンツの上席執行役員 大阪本社長を務める藤井久矢氏は、「私たちは、単にインフラというモノを作るだけではありません」と語ります。「当社は、日本全国の新幹線や高速道路、東京国際空港(羽田)や成田国際空港への工学面でのコンサルティング・サービスを手掛けてきました。こうした社会インフラを利用される方、その生活、日本の将来まで担うことが私たちの仕事だと認識しています」
エンジニアリング・プロジェクトの規模および範囲が拡大し続ける中、パシフィックコンサルタンツは生産性の向上、従業員のエンパワーメント、競争優位性の維持のために、最先端のテクノロジーと新しい作業方法の採用に熱心に取り組んでいます。またパシフィックコンサルタンツがダッソー・システムズと提携した目的の一つには、数多くの土木プロジェクトをより効率的かつ正確に管理し、知識をより効率的に集約し共有していくということもありました。同社はまた、運用管理の手間を省きながら、プロジェクトのニーズに合わせて機能や能力を素早く導入したいとも考えていました。
「クラウド版はサブスクリプション方式で購入できるため、固定資産としての負担を回避することができます。また、IT管理に専任の担当者を置く必要がなく、常に最新のテクノロジーを利用できるというメリットもあります」と、藤井氏は述べます。
「3DEXPERIENCEプラットフォームに移行した最大の理由の1つは、ジェネレイティブ・デザイン機能でした。ジェネレイティブ・デザインの魅力は、何かをつくるたびにゼロから始めて何度もやり直す必要がないため、合理的で効率的に作業できることです。また、3DEXPERIENCEプラットフォームでは、すべてのデータを一元管理できます。一貫性ある3Dベースのデジタルフローでシームレスに情報を共有できれば、多くのプロジェクトに関わっていても、非効率なプロセスを取り除くことができます」
3Dモデリングへの移行
政府は近年、土木業界向けにビルディング・インフォメーション・モデリング(BIM)の利点を広く宣伝していますが、パシフィックコンサルタンツではさらに一歩踏み込んでBIMの導入を進めたいと考えています。
「国土交通省が主導して、BIM/CIMを推進しているという流れがあります。」と、パシフィックコンサルタンツの国土基盤事業本部 砂防部、菊池将人氏は語ります。「いっぽうで今のBIM/CIMモデルを作る流れの中では、現場で主流となって使われている2次元図面がまずあり、そこで出来上がった二次元の構造物から完全に3次元モデルを作るというような時間のかかる手順が一般的になっています。砂防堰堤の設計を例にとると、要求された(ダムの)高さをもとに図面を作成し、それで要件を満たすことができるのか、目標としていたものになっているのかを検討し、もし違ったらまた一からやり直していました。このプラットフォームを採用したことで、一連のプロセスを3Dから始めてバーチャルツインで検討し、プロジェクト全体を通して同じデジタルモデルで作業できるようになりました」
3DEXPERIENCE CATIAを使った3Dモデリングにより、正確なデータに裏打ちされたできる限り高品質の設計を実現可能となったことは、同社で高く評価されています。
「設計やエンジニアリングのプロセスを可視化できているところが非常に良いと思います。デザイン・ナレッジ・テンプレートを使いながら、『こんな風にモノをつくっているんだね」『じゃあここ改良した方がいいよね』など、そういう話ができるのは良いことだと思います」と、菊池氏は述べます。「(デザイン・ナレッジ・テンプレートは)順番通り物事を組んでくれて、それで一つのプログラムが組めるのです」
3Dモデルの一部に変更や修正が生じても、構造設計や出力図面のすべてを手書きで更新する必要はなく、自動的に更新が反映されるようになりました。
パシフィックコンサルタンツの品質技術開発部 i-Construction推進センター 上席調査役である伊東靖氏は、「ここを変えたらここまで進んだ、というように過程を把握できるところが驚くべきことです」と語ります。
2次元の図面だけを使っていたときは、砂防堰堤1基の土砂量を計算するのに1時間程度かかっていました。それが今は、3DEXPERIENCEプラットフォーム上で数秒で計算が終了し、知りたい情報を瞬時に得ることができ、検討作業が捗ることで検討の精度向上と時間の大幅な縮減が可能になりました
より迅速かつ効果的なソリューションを
パシフィックコンサルタンツは、クラウドベースの3DEXPERIENCEプラットフォームを使用することで、新しいインフラの調査分析や設計を以前よりもはるかに迅速に行えるようになりました。
「これまで、土砂量の計算には二次元図面を使っていました。砂防堰堤の高さごとに横断図を作成し土砂量を計算していたため、二次元図面を使って高さを変えていたのでは手間と時間がかかります。3DEXPERIENCEプラットフォームにより可能となった3Dモデルを使うことで、一瞬で土砂量を算出できるようになって、多くのパターンを効率よく計算できるようになりました」と、菊池氏は述べます。
「2次元の図面だけを使っていたときは、砂防堰堤1基の土砂量を計算するのに1時間程度かかっていました。それが今は、設計とエンジニアリングにおいてバーチャルツインを使用すると、3DEXPERIENCEプラットフォーム上で数秒で計算が終了し、知りたい情報を瞬時に得ることができ、検討作業が捗ることで検討の精度向上と時間の大幅な縮減が可能になりました」と、伊東氏は語ります。
これまでに無かったスピード感は、自然災害が発生し、緊急に防護策を講じる必要がある場合には欠かせないものです。
「たとえば道路設計で一路線、300メートルの距離にかかる土砂量のパターンを計算するには、通常、1週間かかっていましたが、今では1日で終わらせることができます」と伊東氏は言います。「土砂災害などの緊急事態が発生し、一刻も早く堰堤を修復しなければならない時、私たちは瞬時に適切な解決策を提案し、情報に基づいて判断を下すことができます」
パシフィックコンサルタンツにとっては、そのような対策にかかる費用を正確に見積もり、場合によってはそれを削減できるという点も重要です。
パシフィックコンサルタンツの品質技術開発部i-Construction推進センター長の鈴木啓司氏は、次のように述べます。「災害対策には予算が、予算には被害規模と被害額の計算が必要です。以前は(災害が起こると)何十種類もの被害パターンを短時間で提示しなければなりませんでした。現在は、土地の所有者やプロジェクト管理会社などさまざまな関係者の前に3Dモデルを置いて、『このようになります』と説明できるようになりました」
知識の維持と共有
パシフィックコンサルタンツは、その膨大かつ多様な工学的専門知識により、日本のみならず世界的にも高い評価を得ています。しかし、その専門知識を維持し、次の世代に引き継ぐには、新たなアプローチが必要でした。
「私たちはこれまで、師匠がいて弟子がいる、いわば『徒弟制』のような仕組みの中で各々が知識やスキルを受け継いできました」と、藤井氏は語ります。「この従来の技能伝承の枠組みが通用しなくなったということではありません。それよりも、コロナ禍などによるテレワークの影響もあります。熟練したプロフェッショナルから初心者への技術継承が難しくなっている側面はあると思います」
パシフィックコンサルタンツは、コンサルタントがよりシステマティックにアイデアや専門知識を共有できるように、3DEXPERIENCEプラットフォーム上に知識のデータベースと包括的なデザイン・ナレッジ・テンプレートを構築しています。
「私たちは、自社の熟練したプロフェッショナルの知恵をパシフィックコンサルタンツ内に蓄積し、失われることのないようにしています」と、藤井氏は述べます。「3DEXPERIENCEプラットフォームは特定の個人が持っている知識を1つのところに集約、組織全体の利益のために全員がアクセスできるようにするのに役立ちます」
菊池氏による事例の紹介:
「たとえば愛知県で砂防堰堤を作ろうとするなら、愛知県の基準にのっとって作らなければなりません。基準は自治体ごとに細かく異なります。プロジェクトごとに都度基準を調べるのではなく、あらかじめ自治体ごとの基準をふまえた砂防堰堤用のナレッジ・テンプレートを作成しておけば、大幅な時間短縮を実現できます」と、菊池氏は説明します。
さらに、「新入社員の研修にも役立っています」と菊池氏は付け加えます。「砂防堰堤のプロジェクトで使っている3Dモデルは、実際の砂防堰堤の設計と同じ順序で作成されているので、新入社員にこの3Dモデルを見せながらプロセスを教えれば、彼らにも作り方が理解できます」
最近まで、たとえば土砂量を計算するのに、2次元の図面を使っていました。3DEXPERIENCEプラットフォームにより可能となった、3Dモデルを使うことで、より効率的で正確な計算ができるようになりました
革新的思考が必要な時代
2019年から順次、働き方改革関連法の施行が進んでいます。これに対するパシフィックコンサルタンツのような企業側の対応は、働き方改革を受け入れ、従業員がより生産的に働けるように支援することで、健全なワークライフバランスを実現することでした。
「コンサルタントとは、単に何かを作る以上のことをしたいと望むものです」と、藤井氏は述べます。「想像力と洞察力をもって職務にあたりたいのです。いつもと同じように仕事をするのではなく、まったく違う発想や方法を試してみたいのです。インフラ・プロジェクトとともに、私たちも進化し続けています」
「図面の作成やトライアル作業がなくなったことで、その分新しいことにチャレンジする時間が増えました」と、菊池氏は付け加えます。「3DEXPERIENCEプラットフォームのおかげでできた時間的余裕を使って、新しい事にチャレンジできる時間が増えています」
パシフィックコンサルタンツは「技術の力を、未来の希望に」というビジョンを掲げ、持続可能なインフラを構築するために、より戦略的にデータを活用することを計画しています。
「当社は『Pacific Net Zero』の取り組みを通じて、プロジェクトや業界全体の脱炭素化に積極的に取り組み、国連の17項目の持続可能な開発目標のそれぞれに直接関与していきます」と、藤井氏は語ります。「たとえば二酸化炭素を吸収するセメントの使用について、話し合っています。すでに自社のプロジェクトにおいて、二酸化炭素を吸収して酸素を放出し、それを途上国のCO2排出量のオフセットに利用する仕組みの整備も始めています」
藤井氏は、建設産業の可能性を最大限に解き放つには、結局のところ、データの共有や連続性が重要だと考えています。ENOVIAの多様なアプリは、チームがコラボレーションし、設計やドキュメント、ワークフローを共有できるようにします。
「これまでとは異なる考え方やソリューションを採り入れてインフラのプロジェクトは進化していくべきですし、そういう意味ではコンサルティングも変わってきています」と、藤井氏は結論づけます。「近い将来私たちは、設計だけを基盤とするのではなく、入手可能なあらゆるデータを活用して、真の意味において持続可能でレジリエントなインフラやスマートシティを構築することで勝負していきたいと考えています」
パシフィックコンサルタンツについて
1951年に設立されたパシフィックコンサルタンツは、インフラストラクチャー・エンジニアリングを中心にサービスを提供する建設コンサルティングのリーディングカンパニーです。約1,300名の技術士やその他の専門性の高い熟練のプロフェッショナルが、幅広い分野の知識、豊富な経験、創造力を駆使し、信頼できる技術とサービスを通じて、お客様に価値を提供しようと取り組んでいます。パシフィックコンサルタンツは、「技術の力を、未来の希望に」というビジョンを掲げ、豊富なエンジニアリングの専門知識を活かして、社会の持続可能な発展に貢献していきたいと考えます。
詳しくは、ウェブサイトをご覧ください:www.pacific.co.jp