船舶・海洋業界の環境に配慮したエンジンの製造
国際海運は、ゼロ・カーボン・エミッションの未来を目指す道を歩み始めました。国連の海運規制を策定する、国際海事機関(IMO)は、2050年までに海運業界の温室効果ガス排出量を2008年比で50%以上削減する目標を採択しています。国連の持続可能な開発の13の目標を支持するこの戦略には、二酸化炭素排出量を2030年までに40%、2050年までに70%削減することも含まれています。
IMOのビジョンは、今世紀中に温室効果ガスの排出を完全になくすことです。2021年のIMO年次シンポジウムでは、業界に対して新技術、新燃料、技術革新の導入が求められ、低炭素およびゼロ炭素の海洋燃料に関する注目すべき研究開発がすでに進行中であることが公表されました。
Hyundai Heavy Industries ‐ エンジン・機械部門(HHI-EMD)は、持続可能性への取り組みをリードする企業のひとつです。韓国を拠点とする世界最大級の舶用エンジンメーカーで、世界の舶用エンジン市場で35%のシェアを誇ります。
「HHI-EMDは、IMOの規制に従い、船舶の推進用および陸上発電所の発電用として、世界ナンバーワンの持続可能なエネルギープロバイダーになることを目指しています。」とエンジン・機械部門のプレジデント COOの An Kwang-hean氏は述べています。「IMOは、最近、海洋業界に対してさらに厳しい環境規制を導入しており、陸上発電設備でも環境に配慮したエネルギーを求める圧力を増しています。HHI-EMDは、これらの要求に応え、エンジン生産におけるリーディング・ポジションを維持するために、技術開発と生産能力に投資しながら、最善な製品の開発に向けて前進しています。」
独自の中型エンジンブランド「HiMSEN」を開発しているHHI-EMDが最近注力しているのは、デュアル・フューエルのエンジンです。このエンジンは、液体燃料と液化天然ガス(LNG)などの環境に優しい代替燃料の両方で作動し、より効率的な運転と汚染物質の削減を可能にします。
「当社は、代替のデュアル・フューエル・エネルギーに大きな関心を寄せています。」とKwang-hean氏は述べます。「デュアル・フューエル・エンジンの利用は、ディーゼル・エンジンの利用と比べ、二酸化炭素、硫黄酸化物、窒素酸化物の排出量を大幅に削減できます。産業界に対する脱炭素化の要求が増す中、デュアル・フューエル・エンジンは、持続可能な造船業に大きな貢献を果たすと期待されています。そのため、当社は、このカテゴリーに注力して、環境に優しいビジネスに特化したエンジン・メーカーとしての地位を強化し続けていきます。」HHI-EMD社は、エンジン開発に特化した世界有数のエンジニアリング企業としての評判および信用を確立していく中で、エンジニアリングから製造に至る製品開発プロセス全体を通じてデジタル連続性を確保できる、最新のプラットフォームを必要としていました。また、ライセンサーであるHHI-EMD社、ライセンシーと、船舶所有者の3者で、エンジンの意思決定に関与する連携をサポートする必要がありました。HHI-EMDは、3DEXPERIENCE®プラットフォームにより、これに対応しています。
「当社は、エンジニアリングに特化した企業になるためのデジタル・トランスフォーメーションを進めています。」とKwang-hean氏は述べます。「HiMSENエンジン事業の拡大と発展に伴い、ライセンシーとの体系的なエンジニアリング連携が必要であることが明確になりました。また、データをより適切に管理する必要もありました。
プロセスの改革活動から始め、新たな方向性と導入戦略を策定し、当社の要件に最も適合するシステムを検討した結果、3DEXPERIENCEプラットフォームの導入を決定しました。」
デジタル化による、競争優位の獲得
現在、3DEXPERIENCEプラットフォームは、エンジンの専門家が効率的にデータを管理し、製品開発のスピードアップや、継続的な品質向上、コスト削減を実現するための運用の効率化に重要な役割を果たしています。
3DEXPERIENCEプラットフォームを利用して、当社は事業部内での仕事のやり方を変革し、イノベーションを起こして、競争力のある価格で製品を提供し続けています」Kwang-hean氏は述べます。「正確な情報を適時にチームで共有して、データ主導型のハイペースのデジタル・ビジネス環境を導入するために役立っています。」
単一の統一された環境で作業することで、エンジニアは、異なるアプリケーション間の切り替えやデータ変換に時間を費やす必要がなくなり、イノベーションの探求や新しいエンジン設計の課題解決に注力できます。
エンジン・機械事業部のKim Seungmin氏は次のように述べています。「以前のシステムを使用していたときは、設計データと製品データ、管理データ間の一貫性のレベルが低かったのです。3Dや部品表(BOM)、図面、関連ドキュメントを含む設計データを別々のシステムで管理していたため、設計プロセスが効率的ではなく、ノウハウの蓄積も困難でした。各システム間の設計データに不整合があったため、リビジョン、変更の追跡、影響を受けるすべての要素の修正が困難でした。3DEXPERIENCEプラットフォームは、これらをすべて一元管理し、当社のアプローチをより良いものへと変えています。」
3DEXPERIENCEプラットフォームを利用して、当社は事業部内の働き方を変革して、競争力のある価格で製品を提供し続けるためのイノベーションをサポートしています。
設計の標準化がもたらす効率化
HHI-EMD社はお客様のご要望に応じてエンジンを製造しているため、HiMSENエンジンの仕様は、プロジェクトによって異なります。導入の一環として、HHI-EMD社はHiMSENエンジンの3DモデルをCATIAに移行し、エンジニアが3DEXPERIENCEの環境で完全に作業できるようにして、すべてのエンジン・オプションと派生モデルを効率的に管理できるようにしました。
Seungmin氏は説明します。「プラットフォームの主なユーザーは、設計エンジニアで、特にHiMSENエンジンの量産開発に重点を置いているメンバーです。CATIAを3Dモデリングに使用して、仕様、エンジニアリングBOM、製造BOMの管理にはENOVIAとDELMIAを使用しています。単一のプラットフォームですべてを処理できることを当社にとって重要でした。」
現在、エンジニアはCATIAを使用してHiMSENエンジンのあらゆる面を設計して、部品の標準ライブラリをENOVIAで構築しています。
Seungmin氏は語ります。「エンジン・モデル全体の作成には、CATIA for Mechanical Engineeringの専用機能を使用しています。また、特殊機能により、配管のモデリングも容易に行うことができます。3Dモデリングに関して、各事業部門に適したテンプレートを作成して、寸法や形状の決定に役立つ部品の標準ライブラリを構築しています。」
BOMの自動化
HHI-EMD社は、プラットフォームの機能を最大限に活用して、さらなる効率化のために作業および設計方法を変更しています。
「3DEXPERIENCEプラットフォームを採用することで、設計方法を標準化し、エンジニアリング・データを一貫して管理するための作業方法を刷新し、グローバル・スタンダードに適合するエンジニアリング能力を進めることができました。」とKwang-hean氏は言います。
エンジニアによるBOMの作成方法の変更は、そのメリットのひとつです。
「以前は、CAD、PDM、社内BOMシステム間のデータ交換を手作業で行っていました。CADやその他のシステムからのすべての3Dモデル、2D図面、部品表データを社内で承認後、部品表システムに転送していました。その後、修正や手動での入力を経て、最終的なBOMデータを社内のエンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)システムで保管していました。現在は、DELMIAを使用して、承認された設計エンジニアリングBOMから生産BOMを作成することで、エラーを削減しています。また、設計を変更すると、すべての関連図面、モデル、BOMデータも自動的に更新されます。」
HHI-EMD社は、このアプローチの利点を活かし、製品開発ライフサイクル全体にわたるシームレスなデータ・フローをさらに達成する方法を現在検討しています。
「製造プロセスではBOMの範囲を拡張する予定です」とSeungmin氏。これにより、仕様書とエンジニアリングBOMを製造BOMに接続して、一貫性のある追跡可能なBOM管理システムを実現できます。」
また同社は、可能な限り効率的な変更管理のためにENOVIAを使用しています。
「ENOVIAの変更管理機能を使って、変更内容を明確にして関連ドキュメントをすべて添付しています。」と、Seungminは続けます。「これらは、モデルおよび部品表を承認後に自動的に更新されます。このプロセス全体を個人のダッシュボードで監視できます。」
さまざまな部品をプラットフォームの複数のウィンドウで開いてリアルタイムで同時に作業できます。
継続的なデジタル・トランスフォーメーション
HHI-EMD社は、3DEXPERIENCEプラットフォームの標準化されたワーク・フローを活用して、設計、エンジニアリングから製造、ERPに至るまで、製品開発プロセス全体にわたって点と点をシームレスに結びつけています。HHI-EMD社社は、エンジニアリング能力を高め、新たなジョイント・ベンチャーを追求しつつ、プラットフォームにより世界のどこかららでも新たなライセンシーや船主とシームレスな連携を実現しています。
「さまざまな部品をプラットフォームの複数のウィンドウで開いてリアルタイムで同時に作業できます。」と、Seungmin氏。当社のパートナーやお客様が、CADファイルを開かずに、Webで2Dや3Dモデルを確認できます。また、大規模なアセンブリの3Dモデルを共有すると、読み込みが非常に速く、プロセスがより簡素化されます。」
プラットフォームの導入と並行して、HHI-EMD社はダッソー・システムズに相談して、進化するビジネスのために長期的なデジタル・トランスフォーメーション戦略を策定しています。
「このプロジェクトにより、設計、研究開発、生産、品質管理の最新技術を活用して、開発時間、生産コスト、試運転、品質のすべてが改善できることが確認できました。」と、Kwang-hean氏は言います。
これに基づき、HHI-EMD社は、今後3〜4年間にわたって、10のマイルストーンを含む、戦略的デジタル・ロードマップを策定しました。
「現在、約120人の社内外の設計エンジニアが3DEXPERIENCEプラットフォームを使用しています。」とSeungmin氏は説明します。「製品開発の競争力を強化するために、高度な計画系とスケジューリングをプラットフォームに近々導入する予定です。最終的には、3DEXPERIENCEプラットフォームの利用をさらに拡張して、生産現場のさらなるスマート化を計画しています。」
Hyundai Heavy Industries - エンジン・機械部門
韓国のHyundai Heavy Industriesのエンジン・機械部門(HHI-EMD)は、世界市場で約35%のシェアを持つ世界最大の舶用エンジンメーカーです。HHI-EMDはHiMSENブランドで中型エンジンを製造するほか、環境に優しいガス供給システムHi-GAS、選択触媒還元システムNoNOx、バラスト水処理システムなど、環境に優しい船舶設備や陸上エネルギープラントの製造・供給でも業界をリードしています。