マイクロサージャリー支援用ロボットでより多くの命を救う
肉眼では見ることが困難なため、特殊な顕微鏡や器具を用いて行わなければならない外科手術があります。マイクロサージャリー(微小外科)と呼ばれるこの分野では、通常、直径数ミリ以下の血管や神経など、体内の小さな構造の修復や再建を行います。マイクロサージャリーは、がん手術後などの乳房や頭頸部の再建手術から、リンパ浮腫の治療、切断した指の再接着まで、あらゆる場面で採用されています。
マイクロサージャリーの技術が進歩するにつれて、患者の生存率とクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を向上させるため、この分野はあらゆる医療専門領域で勢いを増し続けると考えられます。しかし、マイクロサージャリーは非常に難しい技術であるため、その訓練を受けた外科医は限られています。つまり、どこの病院でもすぐに対応できるものではありません。マイクロサージャリー支援用ロボットシステムは、この課題を克服して需要に対応する大きな可能性を示しています。特に手ぶれを制御するという点で、このような繊細なマイクロサージャリー手順を実行する人間の限界を克服するのに役立っています。
この新世代のロボットの市場投入に取り組んでいる企業のひとつに、日本の医療機器メーカー、F.MEDがあります。このスタートアップ企業は、細部まで間近に見ることができる大型モニターから外科医が遠隔操作できる、高度なロボットマニピュレータを開発中です。外科医は、精密な器具を自分で持つのではなく、精度や器用さを高めるために、ロボットマニピュレータの動きを別の制御装置で誘導します。
「ロボットを使って多くの病院でマイクロサージャリーを行える環境を整えることで、患者のQOLを向上させ、社会復帰を支援することができます」とF.MEDのCEOの下村景太氏は述べます。
以前は合計で4ヵ月ほどかかっていた設計作業が、今では3ヵ月ほどで完了するようになったのです
研究プロジェクトから商業用ロボットへ
F.MEDのマイクロサージャリー支援用ロボットは、九州大学 先端医療オープンイノベーションセンターの研究員だった小栗晋氏(現F.MED CTO)が率いる研究プロジェクトから始まりました。小栗氏は自らの研究を、下村氏とともに、コンセプトの段階から進め、商品化することを決意しました。両氏は、ロボット工学の進歩が人々の働き方の変革に役立っていることを認識し、外科医が新しい技術を習得するのに要する時間を短縮するシステムを開発する機会を医療市場に見出したのです。
下村氏は「研究を論文にして終わりにするのはもったいないという話になり、事業化を目指して自分たちで会社を立ち上げて開発を続けることにしました」と語ります。
当初、F.MEDはSOLIDWORKSのCADアプリケーションを使ってロボットアームの要素を開発しました。しかしシステムは急速に複雑化し、電気配線や配管だけでなく、可動部品も増えていきました。管理対象が10,000近くにのぼり、しかも増え続けていることから、同社にはロバストなPLM(製品ライフサイクル管理)ソリューションが必要であることが明らかになりました。
「アセンブリが大きくなり、扱う部品の数が増えるにつれて、製品開発を管理するために、よりアジャイルで拡張性のあるものが必要になってきました」と小栗氏は述べます。
ダッソー・システムズは、F.MEDのPLM機能を3DEXPERIENCEプラットフォーム・オン・ザ・クラウドに切り替えることを推奨しました。クラウドのソリューションを選択したことで、F.MEDは増大するニーズに合わせ、いつでも利用を拡大できるようになったのです。
クラウドによるスケールアップ
現在、F.MEDは3DEXPERIENCEプラットフォーム・オン・ザ・クラウドを使用して、マイクロサージャリー支援用ロボットの製品開発ライフサイクルのあらゆる側面を管理しています。業界内外で高く評価されているダッソー・システムズのエンタープライズレベルのテクノロジーを導入することで、F.MEDはこのプラットフォームが将来にわたって自らのビジネスのチャレンジと歩調を合わせられると確信しています。
「当社よりはるかに大きな企業が3DEXPERIENCEプラットフォームを利用していることを知っているので、当社のロボット開発がより複雑になっても、プラットフォームのサポート能力に不安はありません」と下村氏は述べます。
すでにCATIAによって、F.MEDは大規模なアセンブリを効果的に扱うことができています。一方SIMULIAは、モデリングとシミュレーションを組み合わせたMODSIMをサポートする機能を提供しています。同社はまた、プラットフォームにリモートアクセスでき、効果的なコラボレーションを支える機能も重視しています。
小栗氏は述べます。「同じ設計に別々の場所で取組む場合もあります。3DEXPERIENCEプラットフォームのおかげで、その実現と作業データの共有が簡単になりました。以前は多くの時間がかかっていたものです」
F.MEDはまた、3DEXPERIENCEスタートアップ向けプランを利用できる機会も評価しています。このプランは、eラーニングモジュールや技術的なサポートだけでなく、プラットフォームへの手頃なアクセスを提供します。もし質問がある場合は、専用のコミュニティに投稿すれば迅速に回答を得ることができます。また、使用したテクノロジーに対してのみ料金を支払うため、コストを抑えることができます。
小栗氏は「非常にコストに優しいプランで、ベンチャー企業が小さな一歩を踏み出すには最適な選択肢です」と述べます。「まずは必要最小限のアカウント数で契約し、その後、新しい従業員が入社するたびに追加できます。この柔軟性は、私たちの成長に本当に役立っています」
3DEXPERIENCEプラットフォームは、認証に用いることができるすべての開発記録を保持するので、時間を大幅に節約できます
統合された設計が開発を加速
3DEXPERIENCEプラットフォームに関するF.MEDのチームからのフィードバックは、これまでのところ非常に好意的です。設計を同時並行で進め、3Dモデルをより早く統合できるようになったおかげで、エンジニアリングの時間が短縮されていることを同社は実感しています。同社では以前は、各設計者が最大3ヵ月かけて独自のCADモデルを個々に作成し、その後、チームの他のメンバーと連携して、部品をどのように接合し、より広範なアセンブリに適合させるかを決めていました。
「以前は、異なる3Dモデルの統合に伴う設計上の問題をすべて解決し、コンポーネントの接合方法を決定するのに約1ヵ月かかっていました」と小栗氏は述べます。「今では、設計の初期段階でこれらすべての問題を考慮し、あらゆる課題をより柔軟に克服し、すべての仕様を満たしていることを確認できます。つまり、以前は合計で4ヵ月ほどかかっていた設計作業が、今では3ヵ月ほどで完了するようになったのです」
このような透過性は、すべての部品を追跡し、最終製品の設計と構築の一貫性を確保するために重要です。F.MEDのチームはまた、異なるアプリケーションを切り替えることなく、すべての設計と構造解析のプロセスを一箇所で実行できることも高く評価しています。同社は今ではMODSIMのおかげで、プラットフォーム上で、コンポーネントを設計し、その機能をテストし、シミュレーション結果に基づいて次のイテレーションを迅速に開発できます。
業界認定を取得
すべての製品データを一元管理することは、3Dモデルの変更履歴の完全なトレーサビリティを維持し、医療機器の認証プロセスに対応し、ロボットを日本、ひいては世界市場で認証させるために極めて重要です。
「2025年に日本で医療機器として認証されるよう準備を進めています」と下村氏は述べます。「3DEXPERIENCEプラットフォームは、認証に用いることができるすべての開発記録を保持するので、時間を大幅に節約できます」
F.MEDのマイクロサージャリー支援用ロボットシステムは、これまで九州大学や日本形成外科学会の専門家と共同で実証されてきました。同社は現在、このロボットの市場投入をする前に、第3世代のプロトタイプに取り組んでいます。将来的には、F.MEDは3DEXPERIENCEプラットフォーム上でサポートシステムを開発し、医師が遠隔地の専門家から手術中の支援を受けられるようにしたいと考えています。
「3DEXPERIENCEプラットフォームは、このようなことを実現する能力があると確信しています。したがって、医療用ロボットと並行して、どのようにそれを提供できるかを探求するのが楽しみです」と小栗氏は述べています。
F.MEDについて
日本を拠点とするF.MEDは、マイクロサージャリー支援用ロボットシステムを商品化するために、学術とビジネスの見、探求心、情熱を融合させています。
F.MEDウェブサイト: https://f-med.co.jp