レーシング・カーを改良する、新たな機会を毎年活用しています。私たちは、LCAを指針として、性能に妥協せずに、真に持続可能な車両を設計しています。エコデザインがマインドセットです。LCAを1年以内で導入して、持続可能性の戦略を策定する体制を整えています。私たちが達成したことを、誰もが共有できるはずです。
持続可能な未来を目指す、モーター・スポーツ・レース
スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)には、モーター・スポーツが「人々がより豊かになるための力となる」と信念を貫いている学生グループがあります。彼らは、持続可能性の業界ベンチマークとなる高性能フォーミュラ・レーシングカーの開発に取り組んでいます。
フォーミュラEおよびフォーミュラ1が低炭素の未来に必要な新しい技術のテストベッドであるように、EPFLレーシングチームは、Formula Student がより持続可能な世界に貢献できることを明確に示しています。EPFLレーシング・チームは、独自のサステナビリティ部門を設けて、開発のあらゆる段階でチームおよびマシンによる炭素排出量の測定および削減に取り組んでいる、初のFormula Student学生グループです。
創設メンバーのひとりであり、サステイナビリティ部門を率いる、Hugo Fenoli-Rebellato氏は、地球温暖化への取り組みに熱意を注ぎ、チームの取り組みがFormula Studentだけではなく、それ以外の分野においても、責任あるイノベーションを推進することを目指しています。
同氏は、「チーム全員がモーター・スポーツに対して情熱を注いでいます」と語り、次のように続けています。「また、どのビジネスにおいても、持続可能性を常に考慮する必要があると考えています。多くの人たちが、モーター・スポーツのエンターテインメントの側面のみに注目しがちですが、重要なイノベーション・ラボの役割も果たしています。」
ダッソー・システムズは、3DEXPERIENCEプラットフォームによる、レーシング・カーのあらゆる側面の設計およびエンジニアリングに関して、EPFLレーシング・チームを支援しています。現在、このプラットフォームをサステナビリティ部門のサポートにも活用して、レーシング・カー専用のSustainable Innovation Intelligenceソリューションの詳細なライフサイクル・アセスメント(LCA)により、車両の競争力を高めています。
ライフサイクル・アセスメント(LCA)がEPFLにとって重要な理由?
LCA機能を3DEXPERIENCEプラットフォームに組み込むことで、製品による環境への影響に関する、エンドツーエンドの正確な測定を実行できます。このソリューションは、何千もの情報源から一次および二次データ・ポイントを収集して、広範な影響指標を測定します。これには、汚染や水生毒性、酸性化、車両の製造プロセス・使用段階におけるエネルギー消費、レース・イベント間の移動を含む人的活動の影響などが含まれます。
LCAによるEPFLレーシング・チームの目標計画:
- 持続可能主導型の意思決定LCAを車両設計に組み込み、早期段階で各コンポーネントの環境への影響を評価。使用する材料を減らし、汚染度の低い部品を選択できる設計を選択する意思決定に関するフィードバック。再生可能エネルギーの使用および各種の輸送方法による炭素排出量の変化などの要素を考慮して、サプライヤーを比較。
- 連携的なイノベーション:LCAにより、EPFLレーシング・チームに透明性をもたらし、すべての関係者が信頼できる情報を利用することで、製品開発のライフサイクル全体にわたって標準化された持続可能性データを共有して、正確な情報に基づいて意思決定を実行。
- 持続可能性の目標達成:LCAを独自の持続可能性の目標達成に活用。Formula Studentコンペティションの基準に準拠する、競争力のある持続可能な電動レーシング・カーを開発。
- 持続可能性をFormula Eコンペティションに組み込み:レーシング分野における持続可能性の容易な統合例を率先して示し、その重要性を実証。世界的に認知度を高めて、学生チームも持続可能性を取り入れることができることを専門家に証明。
「新しいデザインや新しい生産方法を探求して、環境への影響を軽減する方法を学び、高性能で可能な限り持続可能な新しい材料を使用する必要があります。」( Savinien Semeria氏、EPFLレーシング・チームCEO)
。学生が専門家向けのツールにアクセス
EPFLレーシング・チームは、専門家向けの標準ソフトウェアを使用して、業界のベスト・プラクティスに基づいて環境課題をサポートすることを目指している意欲的な学生によって支えられています。
「Formula Studentコンペティションに参加して、専門家向けのソフトウエアを使用して目標を達成していること、具体的な指標に基づいていることを伝えたいと思っています。」( Savinien Semeria氏)
ダッソー・システムズとの提携により、3DEXPERIENCEプラットフォームでの設計、エンジニアリング、シミュレーション、プロジェクト管理のすべてのプロセスを、学生たちがすでに使いこなしています。また、ダッソー・システムズのオンライン・ラーニング・ポータルを通じて、新しいSustainable Innovation Intelligenceソリューションを使用するための補助的なトレーニングを受けています。ダッソー・システムズの専門家による、数時間のトレーニングにより、学生たちが行うべきことおよび収集する必要があるデータについて学び、その後の定期的なミーティングを通じて知識を深めています。このトレーニング後、学生たちは独自にツールを使用して、エコデザイン・エンジニアの認定資格を取得しています。このアプローチを、今後の新規ユーザー向けのトレーニングに容易に利用できます。
Thanusya Thambirajah氏(EPFLレーシング・チーム、サステナビリティ部門のメンバー)は、次のように語っています。「トレーニングにより、このソリューションを実によく理解することができました。その後、時間をかけて使い方をマスターしてスキルを高めています。また、毎週ミーティングを通じて、進捗状況を確認しています。このアプローチにより、車両のステアリング・ホイール、シート、アップライトに関するLCAを自力で行うことができました。今後さらに、車両のその他の部品も調べる予定です。」
業界の専門家から、サステナビリティ部門に関する、とても好意的なフィードバックを頂いています。私たちの活動およびその方法がとても高く評価されています。LCAがますます重要になっているため、Formula StudentチームによるLCAへの真剣な取り組み確認することも専門家は重視しているようです。
具体的な指標に基づく、エコデザインの推進
Sustainable Innovation Intelligenceソリューションを導入するまで、Fenoli-Rebellato氏とチームは、現行シーズンのレーシング・カーが排出する炭素の影響を手作業で計算していました。左側のフロント・アップライトに着目する分析により、常識の範囲内で、学内の施設における炭素排出量および活動による間接的な排出量を推定していました。
ソフトウェア導入後、レーシング・カーが環境に及ぼす影響をより正確に特定して、より多くの部品をより短期間で分析しています。調査対象のライフサイクルの各段階における炭素、エネルギー、汚染フローを自動的に特定および数値化するLCAにより、全体的なアプローチを提供して、汚染の流出を回避して、エコデザインの意思決定をサポートしています。
「環境に多くの影響を及ぼしている、水生および土壌の汚染など、15以上の指標があることを認識しています。ライフサイクル・アセスメントは100%完璧とはいえません。このソフトウェアによる大きなメリットは、不確実性の側面を減らし、ライフサイクルにおける要点をより適切に評価して、より環境に配慮した設計を開発できることです。」( Fenoli-Rebellato氏)
。EPFLレーシング・チームは現在、LCA分析から得られた新たな情報に基づいて、原材料から生産方法に至るまで、あらゆる側面を検討して、ライフサイクル全体を通じて環境への影響を可能な限り軽減する車両制作を目指しています
。「分析する必要がある車両部品を特定する必要があります。当初は、輸送による影響が大きいと考えていましたが、実際には使用する原材料による影響が最も大きいことが分かりました。」(Fenoli-Rebellato氏)
。すべてのLCA分析を3DEXPERIENCEプラットフォームの3D設計モデルに直接接続して、さまままなコンポーネントを容易に比較できます。これにより、車両の各部品に使用されているカーボン・ファイバーなどの一般的な材料を測定して、全体的な設計のコンテキストで確かめることができます。この情報に基づき、 使用すべき材料を検討して、持続可能性および性能間のトレードオフを把握することで、環境への影響をより配慮しながら、競争力のある車両を構築できます。
「アップライトだけでなく、車両の他の多くの部品と同じように、カーボン・ファイバーが使われているシートにも注目しました。材料の調達あるいは製造のどちらが最大の問題点なのか確かめる必要がありました。興味深い発見のひとつとして、ウッド・ファイバーにより、カーボン・ファイバーに比べて75%も汚染を防げることでした。しかし、ウッド・ファイバーにより、重量が増すため、軽量化による、より高速走行が重視されるレーシング・カーには適切ではありません。」(Thanusya Thambirajah氏)
重要なのは、LCAにより、原材料の選択から生産およびライフサイクルの終了まで全体を把握して、チームが車両の改善方法を学んでいることです。
「さまざまなコンポーネントを探求して材料を置き換え、車両の全体的なフットプリントへの影響を確かめることができます。例えば、原材料がアルミニウムの場合、より性能を高める可能性がある、さまざまな合金を探すことができます。」(Thanusya Thambirajah氏)
より環境に配慮する今後の連携
EPFLレーシング・チームは、LCAデータを3DEXPERIENCEプラットフォームの3D車両モデルに統合して、すべての設計者、エンジニア、物流専門家、ビジネス・プランナーが、組織全体の環境フットプリントにプラス影響をもたらすことを目指しています。プラットフォームでのシームレスな連携により、各自の決定が及ぼす影響を明確に可視化して確認できます
。「全員が3DEXPERIENCEプラットフォームを通じて同じ情報にアクセスしています。検討が必要な特定の部品を全員がプラットフォームに表示して、評価すべきことを的確に理解できます。このように、より容易に連携して作業できます。」( Fenoli-Rebellato氏)
この最新の取り組みは、持続可能性の重要性に関する認識を高めているだけではありません。EPFLレーシング・チームのさまざまな関連部門(エアロダイナミクス、シャシー、ロジスティクス、スタティックになど)のより緊密な連携をもたらしています。
「各自の取り組みをすべての部門が容易に比較して、共通の目標に向かって進むことができます。このプラットフォームにより、さまざまな部門が連携して、不足しているデータを確認できます。また、コミュニティ共有機能により、疑問点を別の部門に通知して、必要な回答を素早く得ることができます。」(Thanusya Thambirajah氏)
さまざまなコンポーネントを探求して材料を置き換えて、車両の全体的なフットプリントへの影響を確かめることができます。
高度な性能および持続可能性を達成
EPFLレーシング・チームは毎年、Formula Studentコンペティションに参加しています。このため、学生たちは、日ごろから、より持続可能な原材料の使用、再利用やリサイクルの可能性の探求など、すべての部品およびプロセスを変革する、先見性のある取り組みを行っています。
「業界の専門家から、サステナビリティ部門に関する、とても好意的なフィードバックを頂いています。私たちの活動およびその方法がとても高く評価されています。LCAがますます重要になっているため、Formula StudentチームによるLCAへの真剣な取り組み確認することも専門家は重視しているようです。」(Savinien Semeria氏)
EPFLレーシング・チームは、3DEXPERIENCEでLCA機能を活用して、車両の現行の競争力および持続可能性をさらに高めて、次回のレースに臨んでいます。
「レーシング・カーを改良する新たなチャンスが毎年あります。私たちは、LCAを指針として、性能に妥協せずに、真に持続可能な車両を設計しています。エコデザインがマインドセットです。LCAを1年以内で導入して、持続可能性の戦略を策定する体制を整えています。私たちが達成したことを、誰もが共有できるはずです。」( Fenoli-Rebellato氏)
00:00 – 00:12
Savinien Semeria氏、EPFLレーシング・チームCEO:
私たちはサステイナビリティ部門をを運営している、初のFormula Student学生グループであり、その大きな成果が期待されています。
00:13 – 00:19
Hugo Fenoli-Rebellato氏、サステナビリティ責任者、EPFLレーシング・チーム
LCAを1年以内で導入して、持続可能性の戦略を策定する体制を整えています。
00:20 – 00:36
Thanusya Thambirajah氏、 EPFLレーシング・チーム、サステナビリティ部門メンバー:
科学的データに基づく標準化された手法による、3DEXPERIENCEプラットフォームのLCAは、手作業によるLCAよりも遥かに信頼性が高いです。
00:37 – 00:47
Hugo Fenoli-Rebellato氏:
エコデザインがマインドセットです。どのビジネスにおいても、持続可能性を常に考慮する必要があります。これに取り組むために、私たちはサステナビリティ部門の設立を決定しました。
00:48 – 00:58
Savinien Semeria氏:
Formula Studentコンペティションで最高の結果を出すことが一番の目標ですが、さらなる持続可能性も必要です。私たちが求めていることは非常に具体的であり、LCAもまた具体的なものです。
00:59 – 01:28
Hugo Fenoli-Rebellato氏:
手作業によるLCAでは、主にカーボン・フットプリントに注目していましたが、これは大きな間違いでした。CO2排出量だけが持続可能性の課題ではありません。ソフトウェアを利用し始めて、実際には環境に多くの影響を及ぼしている要因に関する、15以上の指標があることを認識しています。私たちは主に、環境への影響が最も大きいと考えられる、CO2、毒性、水生および土壌汚染に注目することを決定しました。
01:29 – 02:01
Thanusya Thambirajah氏:
環境科学および持続可能性に関する知識はすでにありましたが、LCAにより、製品ライフサイクルを把握する方法を学びました。LCAの具体的な一例として、シートがあります。LCAの5つの段階を見てみると、原材料の影響が大きいことが分かります。ウール・ファイバーとカーボン・ファイバーを比較したところ、ウール・ファイバーにより、75%も汚染を防げることが判明しました。しかし、ウッド・ファイバーにより、重量が増すため、軽量化による、より高速走行が重視されるレーシング・カーには適切ではありません。
02:02 – 02:21
Hugo Fenoli-Rebellato氏:
このソフトウェアによる大きなメリットは、不確実性の側面を実際に減らすことです。また、その他の部門と容易に連携できます。つまり、その他の部門が技術部門がモデル化した車両にアクセスして、さまざまな側面で影響を評価しています。
02:22 – 02:46
Savinien Semeria氏:
今やサステイナビリティは、チーム全体のDNAといえます。新しい設計や生産方法を見つけ出し、性能を維持しながら持続可能な新しい材料を使用して、環境への影響を減らす方法を学ぶ必要があります。
EPFLレーシング・チームについて
EPFLレーシング・チームは、2017年に学生たちによって設立されたFormula Studentチームです。同チームは、毎年電動レーシング・カーの設計および開発に取り組み、ヨーロッパ各地で開催されるさまざまなコンペティションやエンジニアリング/ビジネス・イベントに参加して、レーシング・カーの性能を他校と競い合っています。