建築・建設業界 (AEC) は、新しいプロジェクトに取り組むたびに、おそらくその他の業界ではみられない、最大級の課題に直面しています。各プロジェクトが独自で、それぞれに固有の課題があります。AEC のプロジェクトは、何でも適用できる単一のフリーサイズのアプローチは当てはまらず、柔軟性と適応性が求められます。

世界中の複数分野にまたがるコラボレーションを必要とするプロジェクトが近年増加傾向にあります。以前に顔を合わせたり共同作業したことがない企業とチームを組むことはしばしばあります。現場でさまざまな国の言語が使われているかもしれません。使用する機器やコンポーネントも、さまざまな国から調達さているかもしれません。

異質なものを受け入れることで生じる問題や、初めて顔を合わせる別々のチームが効果的に連携することに困難が付きまとうのは当然のことです。ひとつの小さな人為的ミスや設計の一度の修正が、余分なコスト、引き渡しの遅延、リソースの浪費という負の連鎖反応を引き起こします。変更が後の段階で起こるほど、その影響の度合いはさらに大きくなります。

プロジェクトで成功を収めるには、時間と予算に束縛されずに、最高の品質基準を満たし、誰もが緊密に結び付いてチームがシームレスかつ効率的に連携するのが理想的です。

残念ながら、ほとんどの場合、これは夢物語です。たとえば、建築業は過去 60 年間にわたって効率と生産性が低下している唯一の業界です。実際、「製品に関するプロセスをフォーカス: 建築の生産性に対する新しいアプローチ」の記事によると、建築現場全体での廃棄物は30%という驚異的な水準です。

より大局的に見る

長年にわたって、建築管理者は、業務活動の流れではなく、変移に注目してきました。これが不確実なフロー・プロセス、上流変動性の増大、非付加価値活動の増大、産出価値の低下につながっています。建築業界において、「廃棄物」の理解は、現場での廃材の物理的な量に限定されてきました。

しかし、より大局的で包括的な考え方があります。業界の業績を改善するために、特にリーン・コンストラクション・コミュニティの研究者や専門家は、革新の可能性を見出すのに製造業を参考にしてきました。特に、リーン思考と生産原理に関してです。リーン・プロダクションの観点からは、生産フローの物理的な活動は、付加価値と非付加価値という 2 つの要素から成り立っています。この文脈においては、「価値」とは顧客の要件の履行を意味します。実際、リーン・コンストラクションにおいて理解されている廃棄物の概念」(サード・サハン著) によると、廃棄物は単に「顧客/クライアントまたはエンドユーザにとっての価値を創出するために必要とされないもの」と定義されています。

万人は一人のために、一人は万人のために

製品に関するプロセスをフォーカス: 建築の生産性に対する新しいアプローチ」 の記事では、すべての関係者の役割を統合する包括的ソフトウェア・ソリューションにより、垂直的で無駄と繰り返しの多い働き方を変革する方法について説明しています。

メッセージの本質はシンプルです: 反復するのではなく、連携する:「AEC プロセスにおける最大の無駄な領域のひとつは、複数の重複する図面の作成です。今日ほとんどの建築家は、3D 表現図を作成して、そこから 2D 図面を抽出しています...建材メーカーは、すべてのナットやボルト、提供する部品がどのような組み合わせになるのかを示す詳細な制作図を作成します。施工業者には、足場、型枠、資材置き場や機材のためのスペースなどを示す施工図が必要です…」

この記事は、業界の動向について説明しています。つまり、制作のための設計、引き渡しのための設計、製造および組立のための設計です。このような動向に従って、AEC の関係者がサイロをなくすことができれば、その結果として将来の AEC 専門家はこれまで以上に効率的に多くの複雑なプロジェクトを手がけることができるようになります。

プロジェクト統括機能の拡張:ポストデジタル時代におけるプロジェクトの実施

ポスト-デジタル時代にプロジェクトの統括を強化するには、従来のワークフローをデジタル化する以上の対策が必要です。それには、一連の多様な情報、ツール、ワークフローを順応的に統合するソフトウェア・プラットフォームが必要です。さらには、新しい作業方法を可能にするプラットフォームが必要です。

統一による簡略化が鍵を握ります。たとえば、前回のプロジェクトのある単一の要素 (建物の単純な柱など) を考えてみましょう。

旧式の (多くの場合今現在の) 業界の業務実践を考えると、このひとつの要素は、5 人の異なる専門家によって 5 回に分けてモデル化されます。つまり、建築家、構造エンジニア、構造ディテーラー、ビルダー、および施設マネージャです。この業界がなぜうまくいってないのか、その比喩として、不要な反復を考えてみましょう。

利用可能な最近の技術では、関係者全員が利用できる柱のモデルは単一でなければなりません。このモデルには、各自が仕事をするために必要な細部とデータがすべて含まれます。同様に重要なのは、モデルをリアルタイムで更新する必要があるので、プロジェクトの関係者全員が理解できる専門用語で、画面上で最新の柱の状態を確かめることです。

時間と資金を無駄にしない

この業界では、コストと時間を旧態の技能ベースの関係で認識しなければなりません。一方で、範囲や品質はもはや目的に相応しくなくなっています。少ない回数で、より多くより良く行う方法を見つける必要があります。問題点は、多くの企業が、受動的にそして誤って、品質 x 範囲 = コスト x 時間を受け入れているように思われることです。

コストと時間はプロジェクト・デリバリーに相応しい要素ではないことを先ず理解する必要があります。実際には、建築環境プロジェクトがどれだけの品質と範囲を達成できるのか判定することには限界があります。業界の課題は、プロジェクト・デリバリーの専門家を手助けして、消費されるコストと時間に不釣り合いになっている、品質と範囲を向上させることです。

これを達成するには、設計と施工間の障壁を取り払う必要があります。設計と施工の間にある障壁をなくす必要があります。現在のプロセスでは、最も重要なときに情報と知恵を共有することが妨げられます。要するに、両面で生産を簡素化し、消費に変化を与えるために連携できるプラットフォームが必要です。これにより、集合的な経験が適用され、技能サイロをまたいで、必要なときに機会とアイデアを取得できます。

不可避な設計変更によるコストを削減する方法も見つける必要があります。たとえば、クライアントによる変更、建築上の追加、単なる予算カットなど、何が原因であるかは関係ありません。プロジェクト・ジオメトリに対するマイナー・チェンジは、プロジェクト・チーム全体にわたって大幅な再設計作業を引き起こす可能性があります。

マイナス志向ではなくプラス志向で変更を行うにはどうすればよいのでしょう?関係者全員をひとつの統一されたウィニング・チームにまとめて、問題になる前に課題を解決する知識を身に付けるのが理想的です。こうすれば、ひとつのレンガが敷設される前に、設計を変更したり、工事の障害となるものにフラグを立てるときに、各自がその最小限の変更がそれぞれの役割にどのように影響するのかリアルタイムで正しく確認することができます。すべてを以前よりも短時間で行うことが可能になります。

技能の近代化

デジタルな連続性がその理想を実現します。古い壁を取り壊し、働き方の近代化の扉を開きます。デジタル・シミュレーションを使用して仮想環境において、知識をデジタル化および共有し、生産を簡素化し、新しい施工方法を探求および試行して完璧なものにできます。それを達成する方法の基本的な青写真がここにあります:

  1. 設計、エンジニアリング、施工技術の近代化は、AEC の専門家にオンライン・プラットフォーム、自動化、および集合的なナレッジとノウハウを提供します。
  2. クラウドベースのプラットフォームにより、プロジェクト参加者は、広範囲のオンライン・ネットワークを構築して、摩擦や地理的制約なしに情報交換を行い、新しいプロジェクト情報をデジタル・モデルにシームレスに取り込むことができます。
  3. 自動化により、専門家がアルゴリズムとテンプレートを判断できるようになり、プロジェクト・デリバリーのプロセス全体を通じて変更コストを削減し、将来的に再利用できます。さらに、自動化は設計や制作をデジタル製造にシームレスにリンクさせ、より低コスト、より短時間で高品質を実現できます。
  4. 接続されたオンライン環境によって蓄積される集合的なナレッジとノウハウにより、すべての部門がプロジェクトの課題に取り組むことができるため、さらなる自動化、統合、アイデアのやり取りをもたらされます。例えば、最も初期のプロジェクト段階から完全かつ自信を持って、材料量、建築順序、プロジェクト・コストを予測することができます。

事例

Zahner 社は、制作業者や施工業者および統合されたサプライ・チェーンから得られる早期の知見により、非常に複雑なプロジェクトの手戻りを大幅に減らすことができる例を示しています。ダッソー・システムズお客様活用事例この米国を代表する建築、エンジニアリング、製造、施工企業について説明しています。

Zahner 社: クライアントとの連携を変革

建築家、施主、設計者との調整ミーティングで、ダッシュボードを大いに活用しています。

ジェフ・カニンガム氏

Zahner 社 アドバンスト・マニュファクチャリング・エンジニア

「メリーランド州コロンビアで建築している高さ 70 フィートの円形劇場クリサリスのプロジェクトで、3DEXPERIENCE® プラットフォームの採用を決定しました」と ZAHNER 社の最高執行責任者トム・ザナー氏は述べています。クリサリスは非常に動的なプロジェクトで、すべての関係者を迅速かつ効率的にアップデートする柔軟なプラットフォームが必要です。「プロジェクトの進捗に沿って、施主 (インナー・アーバー・トラスト)、ゼネラル・コントラクター、サプライヤー、パートナー、設計および建設チームのすべての関係者が、リアルタイムで情報にアクセスできるようにする必要があります。」

「このプロジェクトでは、情報をお客様に提供するタッチポイントとしてダッシュボードを使用しました」と ZAHNER 社の上級プロジェクト・エンジニア、シャノン・コール氏は説明しています。「設計作業をして社外のコンサルタントから図面を受け取ると、それをミニ・ストーリーとして投稿します。お客様にはアクセス権があり、すべての段階で通知を受けます。私どもの考えていることや、何を設計中でその外観はどうなのかを可視化して伝えています。これによってお客様は、2D 図面では絶対に達成できないレベルの安心感と確信を得ることができます。

隈研吾建築都市設計事務所:複雑な課題への対応

パラメトリック・デザインの使用が増えていることから、建物の複雑さも増しています。日本の隈研吾建築都市設計事務所 (KKAA) の設計室長 名城俊樹氏も同じ状況に直面しています。同氏は、ダッソー・システムズお客様活用事例に関するインタビューで、「プロジェクトの大型化、複雑化に伴って、課題も大型化・複雑化しています」と述べました。

隈研吾建築都市設計事務所

3DEXPERIENCE を使って、情報や専門知識をクラウド上で共有できるので感心しています。隈研吾のビジョンを組織全体にわたって伝えることを極めて簡単にしてくれます。

松長知宏氏

松長知宏氏

隈研吾建築都市設計事務所3Dモデリング担当主任技師

名城氏は、 Design for Fabricationソフトウェア・ソリューションの 2 つの主なメリット (改訂履歴と性能) により、大きな差別化を図ることができました。「以前のソフトウェアでは、変更が加えられた理由や最終版に達するまでにどのような変更が加えられたのかを把握するのは困難でした。過去の修正の元をたどり、どのように変更されたのか確かめる方法が以前はありませんでした。CATIA では、これができるようになっています。」

隈研吾建築都市設計事務所は、多数の公共部門の仕事を含む、より規則の多い、大規模プロジェクトへの取り組みを増やしています。プロジェクトが増える中、「隈研吾建」の設計哲学の本質を多様なプロジェクトにも確実に保持するという、別の課題が生じています。

不可能を可能にする - 入手可能な範囲で

AEC には 2 つの異なる分野が存在しますが、KKAA 社と Zahner 社 が望んでいることはひとつです。つまり、やりたいことを邪魔されることなくやり遂げることです。両社は最新の技術ツールで連携することによってのみ、業界における最上の建築、エンジニアリング、施工を創出できることを承知しています。不可能を可能にするだけでなく、それは入手可能な範囲でなければなりません。

A. Zahner Company 社長兼 CEOの L・ウィリアム・ザナー氏は、この現代的な技能に対するアプローチのメリットを非常に簡潔にまとめています。「エクスペリエンス、スキル、テクノロジー、クラフトを統合することで、複雑なものを簡素化して、スケジュールどおりあるいは前倒しして、予算内またはそれ以下で建物を建築できます。」

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